家庭教師にキスした

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来てたんだ

エマーソン視点

寮の部屋にいるべきだった。ヘッドフォンをつけて音楽に溺れ、来週のバンドのギグのためのドラムソロを練習しているべきだった。だが、現実は違う。俺は今、ラングドン教授のオフィスへととぼとぼ歩いていた。アイヴィーが訪ねてきた後の衝撃で、まだ頭がぐらぐらしていた。

癌。化学療法。信託基金。クソが。一体全体、どうなってやがる? この一日をこれ以上最悪にするには、あとは実際に金玉を蹴られるくらいだろう。

その考えを振り払おうとしながら、教授のオフィスのドアに着いた。怒ったまま中には入りたくなかった。彼女に腹を立てているわけじゃない。教授は、俺を気にかけてくれる数少ない人間のリストに名を連ねる一人だった。この件は後で考えよう。寮に戻ってから、できればアダムが俺の住処にその哀れな姿を現す前に。

ドアを開けると、そこにいやがったんだ、クソったれが。

アダム。

デスクに座り、いかにも仕事人ぶって、まるで天国への鍵でも差し出されているかのように教授を見つめていた。俺は目を回して引き返したい衝動を抑え、ラングドン教授のデスクへと歩み寄った。

「ベケット君」彼女は微笑みながら顔を上げて言った。「急に呼び出してごめんなさいね」

「いえ。問題ありません、教授」俺はアダムを横目で見ながら、ぶっきらぼうに言った。アダムはすでに俺を睨みつけていた。「何かありましたか?」

彼女は深く息を吸った。「アダムの家庭教師をお願いしたいの」

俺はあんぐりと口を開けた。こいつは教授を巻き込んで何か手の込んだドッキリでも仕掛けているのか? これは撮影でもされてるのか? 「すみません、何ですって?」

「彼の成績が危険なほど落ちていて、助けが必要なの。お願い。あなたは私の最高の生徒の一人でしょう」

ああ、なるほど、冗談の類じゃないらしい。俺は乾いた笑いを漏らした。まあ、すぐにでも冗談に変わってくれるといいが。「結構です」

アダムが鼻を鳴らし、そのクソ忌々しい嘲りの音を立てる度胸を見せた。「こっちから頼んだわけじゃない」

「ああ、俺だって絶対に頼んでない」と俺は言い返した。

ラングドン教授は溜め息をつき、鼻の付け根をつまんだ。「二人とも、やめなさい。アダム、あなたには彼が必要よ。エマーソン、どうかお願いだから、これを引き受けてちょうだい。さあ、二人とも出て行って。オフィスから出て、あなたたちがそうあるべき大人として、この問題を解決してきなさい」

俺はそれ以上何も言わず、ただ背を向けて歩き出した。アダムがついてくるかどうかなんて気にもかけなかった。廊下の半分まで来たところで、もちろん、あいつの不快な足音が、俺が必死にしがみつこうとしていたわずかな正気をかき乱すほど近づいてきた。

うめきながら自室のドアを開ける。いや、俺たちの部屋だ! 今やここは俺たちの部屋。なんて素晴らしいんだ。

俺はドラムスティックを掴み、ヘッドフォンを耳に押し当てた。音楽をオンに。ボリュームを最大に。バッグやデスク、手の届くものなら何でも叩き始めた。一瞬でいい、世界が消えてなくなればいい。

その一分後、アダムが入ってきた。ドアを背後でバタンと閉め、まるで安っぽいスポーツ映画の登場人物みたいに、すでにシャツを半分脱いでいる。バッグを叩きつけるように置き、中をがさごそとかき回し、宿題をやろうと――やろうと――していた。

俺のスティックが叩きつける大きな音に堪えられなくなったのだろう、あいつはイライラした様子で立ち上がった。あいつの口が動いて、何か重要だと思っていることを言ったのが見えた。だが、知ったことか。俺は視線をそらし、ドラムを続けた。

あいつはずかずかと歩み寄ってきて俺の肩を叩き、俺は片方のヘッドフォンをずらした。「だから言っただろ――それ、やめてくれないか? ものすごくうるさいんだ。叩くのをやめるか、外に出てやってくれ」

俺はヘッドフォンを完全に取り外し、あいつを見上げて微笑み、ゆっくりと、値踏みするように頭のてっぺんから爪先まで見やった。「静かなのがお望みなら、お坊ちゃんは別の部屋でも探しに行ったらどうだ?」

奴はごくりと唾を飲み込んだ。「その呼び方はやめろ」

「何でだよ? 『プリティ・ボーイ』はぴったりだろ」

「俺のこと知ってるつもりか? 何も知らねえくせに」

「当ててやろうか」。俺は立ち上がり、奴の真正面に立った。「花形のクォーターバック様。でも成績は急降下中で、パパの可愛い操り人形。筋肉だけで脳みそはからっぽ。それでもパパの自慢の息子になりたくてたまらないんだろ、なあ、プリティ・ボーイ?」

奴の目に陰が差したのを見て、俺は少し胸がすくような思いがした。そうだ、俺が感じているこの気持ちを、ほんの少しでもこいつに味あわせてやりたかった。奴が一歩踏み出し、胸と胸が触れんばかりの距離になる。「もう一度言ってみろ、ベケット」

脅しか? アダム・ピアースなんかにビビる俺じゃねえ。「筋肉バカ。脳なし。パパのがっかり」。俺は一言一言はっきりと区切って繰り返した。

奴に突き飛ばされ、俺はベッドの上に倒れ込んだ。アダムは俺の顔面を殴りつけたいとでもいうような目で睨みつけてくる。上等だ、やれるもんならやってみろ。こっちも誰かを殴る口実を探していたところだ。俺は乾いた笑いをもらし、肘をついて上体を起こす。「もう一度触れてみろよ」。声を低くして、俺は唸るように言った。

「何をするって? ドラムスティックで俺を殴るか? てめえにできるのは、それでクソみたいな騒音を立てることだけだろうが」

俺を挑発しようとしているだけなのは分かっていた。だが、ついさっきアイボリーにも似たようなことを言われたばかりだ。『あいつ、たいして上手くもないくせに』と。奴が喧嘩を吹っかけてきているのは知っていたが、相手にはしなかった。

しかし、アダムが相手なら話は別だ。喜んで喧嘩を買ってやる。

「気をつけな、プリティ・ボーイ」俺は唸った。「てめえのケツに拳を突っ込んで、親父さんの操り糸を手繰り寄せられたくなかったらな。お互い気まずくなるぜ。その糸がどれだけ奥深くまで入り込んでるか、俺には分かるからな」

見えた。アダムが、ああ、こいつのクソみたいな顔を殴ってやると決心した、まさにその瞬間が。奴の目が険しくなり、コンマ数秒後にはベッドに乗り上がってきていた。俺を両膝の間に押さえつけると、拳を顔面に叩き込んできた。俺は呻き声を上げた。頭がベッドに打ちつけられて跳ね返る。下にベッドがあって助かったと思った。

痛みを考える余裕はなかった。俺はすでにジンジンと痛む頭を、そのまま奴の硬い腹へと叩きつけた。頭突きだ。「ぐっ」という苦しげな声と共に奴の肺から空気が抜け、俺はその隙に奴を突き飛ばし、ふらつきながらも立ち上がった。

奴もまた、体を起こしながら面白みの欠片もない笑い声を上げた。俺たちは互いを睨み合う。互いに胸を大きく上下させ、俺の頭はガンガンと鳴り響き、奴は腹を押さえている。「少なくとも俺には父親がいる。お前の父親は、今この瞬間までお前となんて関わりたくもないと思ってきた。お前を欠陥品、クソみたいな失敗作だと思ってんだ。そして、それは事実だ」

「ああ、こっちだってあのクソ親父のことは大嫌いだ」

アダムは頷き、顔にかかった髪をかき上げながら、俺に向かってにやりと笑った。「お前の妹にでも挨拶しに行こうかな。男がみんな、お前みたいに情けないわけじゃないってことを教えてやるためにさ。それもゆっくり、じっくり、一晩中かけてな」

奴の体にぶつかるまで、自分が飛びかかっていることにすら気づかなかった。奴は俺の動きを予測して身構えていたが、それでも俺を甘く見ていたのだろう。意図したほどのダメージは与えられなかったが、奴を地面に組み伏せることには成功した。すると、そのクソ野郎は上体を起こし、俺の肩に噛みついた。

俺が思わずのけぞると、奴はその隙をついて俺を突き飛ばした。俺たちは二人とも、肩で息をしながら立ち尽くす。やがて奴はくるりと背を向けると、部屋から出て行った。せいせいしたぜ。

二度と戻ってこなければいい。

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