クラッシュ・アンド・バーン
アダム視点
俺にはチューターができた!
その言葉が一日中、頭の中をぐるぐる回っていた。屋根の上からクソ叫びてえ! なんなら背中にタトゥーでも彫っちまおうか! しかも彼女は親切で頭がいいだけじゃなく、めちゃくちゃセクシーなんだ。
親父に電話してそれを伝えた時、俺は大統領選挙にでも勝ったような気分だった。それから親父からの三十分おきの催促メールは止まったし、コーチも俺を放っておいてくれるようになった。太陽が少しだけ明るく輝いて見えた。キャシーはまさに命の恩人だった。
授業が終わると、俺は足取りも軽くキャシーの寮の部屋へ向かい、ドアをノックした。
彼女はドアを開け、俺を睨みつけた。俺は思わず後ずさった。一瞬、面食らったが、すぐに気を取り直し、顔に笑顔を貼り付けた。「やあ、こんばんは、キャシー」
「よくもまあ、ここに来られたもんだね」
は? 俺は戸惑い、きっと顔にもそう出ていたはずだ。「キャシー? 何の話だ?」
「とぼけないでよ。ふざけないで、しらばっくれるのも大概にして」彼女はあざけるように笑った。「あんたのこと、好きになりかけてたなんて信じられない。私、――」
俺が呆然と立ち尽くしていると、周りの寮の部屋のドアが次々と開き、何事かと様子を窺っていた。俺はその好奇の視線から目をそらし、胃の中に重くのしかかる羞恥心を感じていた。
「ねえ、昨日あんたが帰った後、親友と話したの」彼女は俺の胸を指で突きながら言った。「彼女が教えてくれたわ。アメフト部の連中が時々やる手口だって。何も知らない女の子を適当に選んで、くだらない賭けをするんだってね」
いや、彼女が間違っているとは言えなかった。時々、チームの奴らは遊びと称して、女子を巻き込む手の込んだ度胸試しをすることがあった。でも俺はそれに参加したことはないし、今回は絶対にそんなんじゃない。「キャシー、違う、そんなの嘘だ。キャンパスの誰にでも聞いてみてくれ。俺は本気でチューターが必要なんだ」
俺は両手をそっと上げ、彼女をなだめようとした。彼女は俺から離れるように後ずさった。「ああ、聞いたわよ。でもその後、親友があんたがマンディにしたことを教えてくれた。一石二鳥を狙ってたわけ? 私があんたに勉強を教えて、あんたはあの汗臭いロッカールームで考えついたくだらない賭けに勝つ、ってね」
「キャシー、今何が起こってるのか本気で分からないんだ」俺は一歩前に出た。「でも誓って言う、君を傷つけたり、騙したりするようなことは何もしてない――」
「やめて! 近寄らないで。男なんてみんなそう。クソみたいな嘘ばっかりつくんだから」彼女は叫んだ。これは完全に俺だけの話じゃない、と感じた。誰かがこの美しい子を以前に傷つけたんだ。そして今、彼女は俺の中にその男を見ているようだった。「二度とここに来ないで」
そう言って彼女は振り返り、俺の目の前でドアを激しく閉めた。
なんだよ、これ? マジで何なんだ? いったい何が起きたんだ?
チューターがいなくなって振り出しに戻っただけじゃない。好きになりかけていたキャシーに、今や憎まれてしまった。
絶望からくる熱い涙が、再びこみ上げてきた。視界の中でキャシーの部屋のドアがぼやけていく。俺は固く目を閉じた。寮に戻らなきゃ。一人になる必要があった。
*
エマーソン視点
「僕のお気に入りのペトラの調子はどうかな?」僕は部屋に顔を突っ込みながら言った。紫色の風船は背後に隠して、ふわりと浮かせてある。
「あなたのペトラは私一人しかいないでしょ」彼女はくすくす笑った。
部屋に入ると、僕の後ろから現れたささやかなプレゼントに、彼女はキャッと声を上げた。気に入ってくれると思っていた。
それをベッドサイドのテーブルに置き、僕は腰を下ろした。「聞きたいんだけど、ペトラ……家に帰ったら、誰かいるの? 手伝ってくれる人とか」
「ええ、いるわよ、もちろん!」
僕は深く息を吸った。ペトラは僕の方を見ず、頬が赤く染まっていく。あまりに軽々しく、普段より甲高い声で言ったので、彼女が嘘をついているのが分かった。
「ペトラ、君が退院する時、ここにいるのは僕だけだよ――」
「エム、大丈夫よ。ママが仕事で遅くなるだけだから」
彼女はまだ僕の方を見ようとしない。僕はそわそわと足を動かした。家庭のことで恥ずかしくて嘘をついてしまう気持ちは、僕にも分かった。ペトラが今まさにそうしていることは、まず間違いないだろう。
「明日、仕事が終わったら来れるよ。彼女がまた残業ならね。たとえそうでなくても、手伝いたいんだ」
ペトラはため息をついた。俺は無理強いしたわけじゃないから、彼女も怒ることはできないはずだ。受け入れるか、断るか。断られたら、その理由を訊けばいい。
「でも、あなたは?仕事はいいの?」
俺は穏やかに微笑んだ。「今日はもう仕事に行かないって伝えてあるし、明日もそうできるから」
ペトラはうなだれた。彼女が口を開くのを待った。やがて発せられた声は、警戒心に満ちていた。「母は国外にいるの。発作のことは軽く伝えたし、入院したことさえ話してない。戻ってこないように」
「戻ってきた方が――」
「ダメ!お金が必要なの。母さんはその仕事のために必死で働いたんだから。私は大丈夫、ほんとに。明日までには、またロッククライミングに行けるくらいになるわ」
彼女はベッドに身を横たえると、唇をきゅっと結んだ。裁きの言葉か、あるいはもっと最悪な、憐れみを覚悟しているようだった。だが、そのどちらもここにはない。「ロッククライミングをやるのか?」
彼女は歯を見せてニカッと笑った。その瞳に感謝の色が浮かんでいるのが見えた。俺たちは、ただ苦しんでいるだけの存在じゃない。誰よりも、俺がそれを知っていた。「やらないの?」
「ああ。でも、今度行くとき連れてってくれよ」
「決まりね」
俺たちはしばし、心地よい沈黙に包まれた。彼女はどことなく、俺の妹を思い出させた。いや、少なくとも、クソ親父が息苦しいまでに抑圧し、俺を家から追放したときに、とうとう殺してしまった妹のあるべき姿を。
「約束してくれ」俺は天井を見つめながら、そっと言った。「何かあったら、必ず電話すると」
彼女は呆れたように目を白黒させたが、その唇に小さな笑みが浮かんでいるのが見えた。「スーパーマン、あなたの助けをもっと必要としてる人が、どこかにいると思うけど」
「ペトラ」
「わかった、わかった、もう。約束するわ」
彼女がタクシーで心地よく過ごせるように見届けてから、俺は家路についた。車が走り去ると、ポケットの中でスマホが震えた。取り出して見ると、ペトラからのテキストメッセージだった。「ありがとう、エム」
俺は画面を見て、一分近くもにやついてから、スマホをポケットにしまい、とぼとぼと家に帰った。
俺はとても気分が良かったので、今日はあのイケメン野郎をからかうのはやめておこうと思った。あの無駄に広い肩幅の男を。それに、そもそもこんな時間に家にいるはずじゃなかった。まだ八時にもなっていない。俺たちの暗黙のタイムテーブルは気に入っていた。朝、すべての混沌が始まる前に、一人の時間を与えてくれるからだ。彼の邪魔はしないでおこう。
シャツを脱いだ、まさにその時、ドアが開いた。アダムが入ってきて、俺の姿を見てぴたりと足を止めた。
俺は降参の合図に両手を上げ、シャツを着直した。
彼は一言も発さず、よろよろと自分のベッドに向かった。俺は彼をじっと見つめた。注意を引かれたのだ。俺の気のせいかもしれないが、あのイケメン野郎は、泣き出しそうな顔をしていた。
こんな彼を見るのは初めてだった。肩を落とし、頭を垂れ、まるで世界に何度も金的を蹴り上げられた男のような姿だった。
「大丈夫か?」
ペトラの姿を彼に投影しているだけのような気がして、何気なく訊ねた。俺たちの関係を考えれば無視されると思っていたが、彼は俺の問いに顔を上げ、その瞳は潤んでいた。
そして、アダム・ピアースが、信じられないことに泣き崩れたのだ。低く、詰まったような嗚咽を漏らし、肩を震わせ、顔を赤く染めて。
俺はその場に立ち尽くし、身長一九〇センチを超える大男を呆然と見つめた。この状態のアダム・ピアースなんて、想像したことすらなかった。ほとんどあり得ないことに思えた――文字通り、すべてを手に入れようとしていたゴールデンボーイが――俺はどうすればいいのかわからなかった。
でも、彼をこのまま放っておくことはできなかった。ただベッドに横になって、ヘッドフォンをつけるなんてできなかった。だから俺は彼の方へ歩み寄り、肩にそっと手を置いた。殴りかかられる可能性も覚悟しながら。
「頼む、エマーソン」彼はためらいがちに言った。まるで俺が救命ボートで、自分が海で溺れているかのように見上げてくる。「助けてくれ」































































































































































